明けましておめでとうございます。今年も、幼い子どもが家庭にいるからこそ実感出来る「心豊かな暮らし」が、皆様のもとにありますよう、また本園がそこに寄り添うことが出来ますように心から祈念致します。

昨年暮れに読んだ本に「虹色のチョーク・働く幸せを実現した町工場の奇跡」(小松成美・著、幻冬舎)という本があります。
この町工場(実際は立派な企業と呼ぶに相応しい会社)は、日本理科学工業といいます。私がこの会社の存在を初めて知ったのは、2008年に刊行された「日本でいちばん大切にしたい会社」(坂本光司・著、あき出版)によってでした。その後、この会社の経営者である大山泰弘氏の「働く幸せ」(WAVE出版)を読み、益々心打たれました。
TV番組「カンブリア宮殿」等でも紹介されたことがありますので、ご存知の保護者も多いかと思いますが、この会社はチョークを生産する会社で、その社員の約七割が知的障がい者であることで知られています。
昭和34年(1959年)、養護学校の先生が生徒を雇ってくれないかと大山氏(当時専務)のもとを訪ねます。大山氏は断りますが、その先生の「養護学校卒業後、就職先がないと一生親元を離れて施設で過ごすことになる」、「働くという体験をしないまま、生涯を終えることになる」という言葉と熱意に負けて、採用は出来ないが就職体験としてなら二週間受け入れる、ということになりました。
その二週間の就職体験が終わる頃に、社員の方から「この子達を雇ってもらえませんか。私達が面倒をみますから」という申し出があり、採用が決まります。
その後、喜んで、そして健常者の社員以上に熱心に働く障がいをもった社員を見て、大山氏は「福祉施設にいた方が楽で、幸せだろうに」と不思議に思ったそうですが、その疑念を晴らしたのが、あるお坊さんの言葉です。

物やお金をもらうことが人としての幸せではありません。人に愛されること、人に褒められること、人の役に立つこと、人から必要とされること。この四つが、究極の人間としての幸せです。
施設にいても家庭にいても、愛される幸せは感じることが出来ても、褒められる、役に立つ、必要とされる幸せは働くことでしか得ることが出来ません。
施設にいてゆっくり過ごしても、幸せにはなれないのです。

大山氏はこの言葉によって、一人でも多くの障がい者を雇用する会社を実現しようと決意します。
それでもロマンだけでは、現実は厳しいものがあります。ある時、大山氏は創業者であるお父様にこのことを相談すると、「そんな会社が、ひとつくらいあっても良いじゃないか」と答えられたそうです。
幼児教育の世界も、社会の変化への対応を求められています。「そんな幼稚園が、ひとつくらいあっても良いじゃないか」という言葉を胸に、今年も「より良い幼稚園づくり」に邁進して参ります。