例年のことながら、三月は慌ただしさと、一抹の寂しさが交錯する毎日です。ところが在園児は進級に向けて、年長児は卒園と入学に向けて、大人の感傷とは程遠く、明るい未来への確信をもって、日々を過ごしているように思えます。またひとつ、子ども達の姿から教えられたようです。
大人も、子どもも関係なく、人として求められる一番の素養は「素直(さ)」ではないかと、私は思います。幼稚園教諭の新卒者や、中堅クラスを対象とした研修会で、私はよくこのような話をします。
「素直(さ)とは、先天的に持って生まれた才能や性格ではなく、後天的に獲得すべき能力のことである」
ちょっと難しいですか?例えば、人間は素直さが最も大事である、という話をしますと、必ず「私は素直じゃないから」と、自分の性格の問題として、とらえる方がいます。
そうではなくて、「そうか、生きて行く上でも、仕事をする上でも素直さが大切なのか。よし、それでは私も素直な態度をとり続けよう」と決心して、日々実行していく姿勢を示し続けられる人を「素直な人」と呼ぶのです。
ここで、保護者の皆さんに20才前後の若い部下や、弟子がいると想像して下さい。あなたの教えることに彼(または彼女)が、何でも「ハイ」と即答して、教えてやった通りに行動するなら、「今どき珍しい、素直な子やなあ。もっと教えてやろうかなあ」と思うのではないでしょうか。
反対に、あなたが何を言っても「だって・・・」とか、「でも・・・」とか言う人だったら、「面倒臭いなあ、この子は。教えてやるのも嫌になる」と、思いませんか?私なら確実にそう思います(幸い本園の先生方には、このようなタイプはおりません)。
結論を言えば「素直な人は、人から好かれる」という、大原則があるのです。人生、人から嫌われて生きるより、好かれて生きる方が良いに決まっています。だから、多少は苦労しても、大人になってからでも(後天的に)ゲットした方が良い能力なのです。
素直は、人から何かを教わる時だけでなく、話を聞く際も大切なキーワードとなります。部活でも、職場でもいいから、こんな先輩と後輩のやりとりを、想像してみて下さい。
先輩「いいか、最初にこうするんだぞ」
後輩「すごいですね、先輩」
先輩「そうしたら次は、こうするんだ」
後輩「なるほどー」
先輩「そうすると、最後はこうなるんだ」
後輩「おもしろいですね、先輩」
多分この先輩は、この後輩のことを気に入って、ずっと可愛がることでしょう。
ところで、皆さん気付きましたか?この後輩が言った言葉「すごいですね」、「なるほど」、「おもしろいですね」、この三つの言葉の頭をつなぐと「す・な・お」、そう「素直」になるのです。いつの世も、我が子が人様から好かれ、可愛がってもらえることは、親の願いです。そのためのヒントを差し上げました。